リオで活躍するサンバダンサー 工藤めぐみ
ブラジル、リオ・デ・ジャネイロの人気エスコーラ(サンバチーム)、「G.R.E.S. Academicos do Salgueiro(サウゲイロ)」で、2008年からパシスタ(花形ダンサー)として活躍する工藤めぐみ。
日本では神戸のサンバチーム「BLOCO Feijao Preto(ブロコ フェジョンプレット)」でダンサーリーダーを務め、ダンス教室「MEGUサンバダンス 」を主催。サンバをPRするため、テレビやイベントなどにも活躍の場を広げている。
今回はそんな工藤めぐみさんの活動をクローズアップ!!5月20日開催の神戸まつりに向けてパレード練習を行っているフェジョンプレットを取材しました。
2003年に神戸で結成されたフェジョンプレット。チーム名は「サンバを通じて皆さんへのパワーの源となるように」との思いを込めて、ブラジル人のパワーの源になってるフェジョンプレット(黒豆)と名づけられました。それではフェジョンプレットはどんなサンバチームなのでしょうか?まずは神戸まつりの歴史からご紹介します。
来場者数は100万人以上 神戸まつり
神戸まつりは浅草サンバカーニバル(1981年)より歴史が古く、昭和42年(1967年)神戸開港100年祭の記念に、昭和8年(1933年)から続く「みなとの祭」の前夜祭として「神戸カーニバル」を開催。4年後の昭和46年(1971年)には「みなとの祭」と「神戸カーニバル」を一つにまとめ「神戸まつり」としてスタートしました。
神戸まつりには、サンバ以外にも様々な団体がパレードします。「東京ディズニーリゾート」から、ミッキーマウスをはじめとするディズニーの仲間たちも参加しています。そんな豪華なパレードの中心を担うのがサンバです。今年は6チームが参加します。
フェジョンプレットでは、日本全国のサンバチームからサンビスタが応援に駆け付け、一緒にパレードを行います。今年はバテリア(打楽器隊)は約100名、ダンサーと併せて総勢190名程になるそうです。もちろん、ただ参加するだけではありません。事前に練習を重ね、質の高いパレードを繰り広げます。距離的に神戸の練習に参加出来ない人のために、東京でも練習会が行われています。
当日訪れる参加者に神戸まつりを楽しんでいただけるように、前夜祭、打ち上げでは趣向を凝らした余興も準備し、交流を深めることにも力を入れているそうです。
結成15周年の今年のテーマは、「Continua A Evoluir 進化」です。どんな衣装で進化を表現するのかにも注目です。
神戸まつりにむけて外練習がスタート!!
チームリーダー工藤高嗣さんの挨拶の後、いよいよ練習がスタート。①フラワーロードから三宮中央通りメイン大通り②サンバストリート、の2か所で行われる本番を想定し、炎天下の中3時間ほど、繰り返し練習を行いました。ダンサーには小さいお子さんもいるので、めぐみさんは子供たちが飽きないように、メリハリを付けて場を盛り上げながら指導します。
通常のレッスンでは、教えるべき時は生徒に厳しく接しますが、思い通りに出来なくてくやし涙を流す生徒を励ましたり、一緒に笑ったり、感情を出して指導しているそうです。子供たちの立場に寄り添ってくれる先生だからこそ、暇さえあれば「めぐ先生~」と子供たちが駆け寄ってくるのもうなずけます。
ダンサーが着ているのは、めぐみさんがリオで所属するサウゲイロの赤白のトップス。日本で応援してくれている生徒のためにお土産に持って帰るそうで、お揃いでしかも日本では手に入らないお土産は子供たちも嬉しいですよね。バテリア(楽器隊)の音に合わせ、小さい子供たちも夢中に踊っています。
この日の練習の様子はムービーをチェック!!!
サンバチームとしてのフェジョンプレット
サンバチームというと、メンバーは30歳以上が多く、子供は親と一緒に参加する小学生くらいまで。サンバチームの多い東京でも、多感な時期の10代や20代がサンバを始めることはほとんどなく、大学時代にサンバを習っていても社会人では辞めてしまいます。社会人になりたての頃は、何かと忙しく習い事をする余裕がないので仕方のないことだと思います。
一方フェジョンプレットでは、19歳から先生として教えているめぐみさんの下で、4才から通っていた子が10年習って今では中学生だったり、15年続けていたりと、小さい頃から長く続けている生徒が多いのが特徴です。
これは小さい子でもレッスンを受けられるダンス教室「MEGUサンバダンス」の存在が大きいと思います。バレエ教室のような感じで、今の子供たちが大人になっても続けていく環境があります。
そして、子供も親御さんも一緒に習えるサンバを中心に、ファミリー同士の交流が増えることによって、ブラジルのようなサンバが生活に密着したコミュニティが出来ていきます。BBQをしたり、お正月に集まったりと家族ぐるみでの交流が盛んになるわけです。
サンバを普及させるためには、これまで通り大人の方にも始めていただきたいですが、若い人の参加も必要です。小さい頃から始められるサンバ教室が身近にあることは、サンバの普及において大切な要素だと思います。
フェジョンプレットでサンバダンサーとして育っている子供たちを見ていると、めぐ先生の存在が大きいと改めて感じます。
生徒にしたら先生がリオで活躍しているダンサーということは誇らしく、目標にもなる。上達したいと思ったときに、先生のアドバイスで世界との距離が測れるとしたら、ブレずにレッスンも頑張れると思います。
めぐみさん自身も、日本で応援してくれている生徒のことを想いながらサウゲイロでの厳しい日々を頑張っているそうです。
ブラジルでチャレンジしている姿は生徒の励みにもなり、めぐみさんも育てるダンサーがいるからこそ、チャレンジ出来るではないでしょうか。
初のブラジル ダンサー修行へ
19歳で半年間、単身ブラジルへ。ポルトガル語もほとんどわからない中で生活をはじめ、人気エスコーラのポルテイラが好きで、練習に通うため、発砲音が当たり前に聞こえるリオ郊外のカスカドゥーラ地区で一人暮らしを始めました。
好きで来たのに泣いてばかりじゃいけないのはわかってるけど、この時ばかりは日本にいるご両親に泣きながら何度も電話したそうです。自分でコントロールできないことがあまりにも多すぎるブラジル生活を乗り越え、見事目標を達成し、ポルテイラのパシスタとしてカーニバルに出場しました。
大学卒業後の2008年に再びブラジルへ。今度はサウゲイロのパシスタとして出場。2009年は優勝を経験します。サウゲイロでの数々の苦労も今では笑い飛ばせますが、毎年様々な困難に直面しがら日本とブラジルを行き来し、足かけ10年サウゲイロのパシスタとして輝かしい実績を収めています。
サウゲイロのパシスタになるということ
サンバダンサーの活躍の場は、大きく分けて2つあります。パレードとステージショーです。
サンバダンサーがブラジルで修行するときの第一の目標は、パシスタ(花形ダンサー)としてリオのカーニバルに出場することだと思います。
そのためにはまず、エスコーラの扉をたたきます。そして練習に参加し、パシスタとして認めらるためにはライバルと争い勝ち抜かなければなりません。競争相手はブラジル人です。人気のエスコーラになればなるほど、競争相手も増え熾烈になります。パシスタになるのは大変な努力が必要なのです。
しかし観客からしてみるとパレードでは見所が沢山あり、パシスタは壮大な物語の一部分にすぎません。もちろん、日本人がパシスタとしてカーニバルに出ることは、大変名誉なことで意義があることだと思います。複数年に渡りパシスタとして選ばれてるのは、これまでの日本のサンバダンサーの中でほんの数名で、中でもめぐみさんは通算10回を数ます。
一方、ダンサーのもう一つの活躍の場であるステージショーでは、主役はダンサーです。
めぐみさんの所属するサウゲイロは毎年優勝候補に挙げらえるほどカーニバルの成績も優秀でありながら、ステージショーにも定評があり、ダンサーの美を徹底的に追及する屈指のエスコーラでもあります。
そのステージに上がることが許されるのは、ダンサーの中から選抜されたメンバーのみ。憧れのショーメンバーになるために、世界中からオーディションを受けにやってきます。
そこに集まるのは、すでに様々なジャンルでダンサーとして活躍している強者達。長年活躍していたブラジル人ダンサーさえも、あるとき突然メンバーからいなくなる・・・。そんな過酷な状況でめぐみさんはショーメンバーとして選ばれ続けています。
「ショーメンバーに選ばれるのは年々難しくなっています。勝ちのこるには日本人としての自分の個性を出せるかです」
これまでは身体のメリハリや体格的な部分、サンバに必要な能力などはブラジル人が有利であるため、日本人として劣っている部分をカバーしつつ、アジア人としての個性を生かすことを心がげていましたが、近年日本以外のアジア人のチャレンジも増えてるそうで、オリエンタルな要素だけでは個性が発揮しずらくなっています。そんな中でめぐみさんは自己表現を追求しながら、練習漬けの日々を過ごしています。
ショーの日は会場に向かう時から気を抜けず服装にも気を付け、憧れてもらえるダンサーでなければらならない。ショーが終わったあとは写真撮影などでファンが集まる。その人気具合や振る舞いさえも厳しい目で見られ、タレント性も求められています。
衣装はすべて自前、レッスンに集中するため、なるべく環境の良い場所に部屋を借りるとなると家賃も高い。リオの生活費も決して安いわけではない。3カ月程度の滞在費用は日本で貯めて行かなければならない。
「日本からサウゲイロのショーを見に来てくれる人との交流も本当はしたいけど出来なくて」
そんな悩みを持つくらい遊びにもでず、全てを削ってストイックに、時にはピリピリしている自分と向き合いながら暮らしているそうです。
リオでの日々に密着したTBSの番組「情熱大陸」では、厳しい状況下におかれた彼女の姿がリアルに映し出されていますが、「日本では違いますよ」とめぐみさん。
日本にいる時のみぐみさんは、陽気でムードメーカー的なキャラクター。見た目のクールなイメージと違って、とっても気さくです。喜怒哀楽の感情表現も豊かで熱血漢です。お父さんとお母さんのお話では、小さい頃から家でもにぎやかで、よく笑い、よく話す子だったそうです。
サンバのことを熱く語り、日本にサンバを普及させるために何ができるか常に考え、サンバを始めたころから目標に向かって突き進み、夢を叶える努力を惜しむことなく続けている。
そんなめぐみさんは、松岡修造さんに憧れているという。・・・すでに近い気がします・・・。
めぐみさんの師匠カルリーニョス(Carlinhos)さん。サウゲイロの振付師として実績はもちろん、カーニバル全体のハイーニャ、プリンセーザ、ヘイモモを決める、サンバ界で注目のコンテストを監修しています。コンテストを盛り上げるショーには、唯一サウゲイロのパシスタも出演してます。カルリーニョスさんは、サンバ界のカリスマです。

カーニバル会場でご両親と一緒に(妙子さん、高嗣さん)
フェジョンプレット ブラジルへ
2016年は嬉しいこともたくさんありました。
リオデジャネイロオリンピックの開会式に、創作ダンスで表現するパフォーマンスで出演。閉会式でもダンスを披露しました。
「何よりも嬉しかったのは、オリンピックの特別ブースTOKYO 2020 ジャパンハウスで、フェジョンプレットダンサーと一緒に出演できたことです」
生徒をリオに連れて行ってあげたいという目標を常々持っていためぐみさんは、ついにその目標をオリンピックイヤーに共演という形で叶えることができました。
まだまだ、サンバでやりたいことがあるという、めぐみさん。その強い意志と行動力があれば、これからも叶えられると思います。
最後に
日本に帰ってきて心休まる場所があるからリオで戦ってこれるんだなぁと思うほど、フェジョンプレットはなんだかふんわりと暖かい。
神戸市民のサンバを見る目も暖かく感じる。神戸は貿易で栄え、ブラジルに渡る西の拠点でもあり、もともと異文化を受け入れやすいとは思う。リオとも姉妹都市。
この日の練習の隣では、同年代の少年たちが爆音をもろともせずバスケをしている。特別なものを見るようでもなく、きっと彼らにはごく普通のサークル活動の風景のように見えるのだろう。
散歩の途中で足を止めたであろうご老人は「神戸まつりの練習ですが?やっぱり生で聞くと迫力が違いますね。元気をもらいました。神戸まつり毎年楽しみにしています」と嬉しそうに去っていった。
やはり、なんだか暖かい。
さぁ、いよいよ5月20日は神戸まつり。
今年も積み重ねた練習の成果が花開きます!フェジョンプレットのパレードに注目です!!!
website:
→BLOCO Feijao Preto Official site
→工藤めぐみ Official site